日本では既に絶滅してしまったが、野生の狼とは元来凶暴な動物であり、人間とは相容れない存在だ。

だが、時には人間に対してさほどの警戒心も見せない狼もいるようだ。

2007年12月17日の夕方。イタリア中央部に位置するアブルッツォ州のヴィレッタ・バッレーアという町にあるバーに、突然狼が現れた。


この狼、満席のバーにふらりと入り込み、多くの客が仰天する中を悠然と歩いてカウンターまで進んできたという。

人々は、この狼を恐れて微動だにしなかったが、唯一マスターだけは、痩せこけていたこの狼に施しをしようと考えた。

彼は、すぐに肉汁たっぷりのステーキを焼き、これをパンに挟んだものを狼に提供したというのである。

すると狼はゆっくりとこの肉を味わい、これを平らげると踵を返して、ふらふらと酒場を出ていき、それ以降二度と帰ってくることはなかったという。

この狼は、現地でも年々数が減少しているイタリアオオカミと見られており、冬場、餌が減ってしまい人里にまで現れた個体ではなかったかと考えられている。

それにしても、人間を見ても襲い掛かることもせず、じっと料理が提供されるまで待っていたとは不思議な狼だ。

一昔前ならば、こういう狼が妖怪や精霊の類であると考えられ、言い伝えられていたことだろう。