アレクサンダー・ピアースはアイルランド生まれのしけた窃盗犯だった。

29歳の頃、運悪く靴を盗んでいたところを取り押さえられたこの男には、7年の流刑を言い渡された。

その流刑先はタスマニア島であるから、かくも遠くに追いやられたものである。

だが、この島には同じような犯罪者がわんさかいる。よって大人しく流刑に処されてばかりではない。


案の定逃げ出そうという話が立ち上がり、アレクサンダーは7人の仲間と共に脱走を企てたのである。1822年9月20日のことだ。

ようやくにもボートで逃げ出した彼らは、そのままオーストラリア大陸に上陸した。だがこの大陸は当時、まだまだ未開の地であった。すぐに食料は底を尽きてしまった。

困窮していた彼らの中で諍いが起きるのも時間の問題だった。とうとうダルトンという男が、猛然とこの度の行動を批判し始めた。

空腹で気が立っている彼らのこと。このような争いが殺し合いに発展してしまうのは避けられなかった。とうとうダルトンの頭に斧が振り下ろされた。

殺したのはグリーンヒルという男だった。これを見ていたトラバースも殺戮に参加した。彼らはダルトンを解体し、そのまま喰らいついた。

その様子に恐れをなした2名がその場から逃げ出し、後に餓死したという。

残った連中は時折殺しあっては、その都度腹を満たしていったそうだ。こうしていつしかアレクサンダーとグリーンヒルだけが残った。

依然として空腹に悩まされていた両者。はっきり言って隙を見せれば殺されてしまう。だが、ここまであまり大っぴらに暴れることのなかったアレクサンダーは体力の消耗も少なかった。

あるとき、グリーンヒルの寝顔に斧を振り下ろしたアレクサンダーは、その血肉を喰らって私腹を肥やすことに成功した。

こうして生き延びた彼は、あろうことかそのままタスマニア島に引き返し、流刑を再開させたという。